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或る『小倉日記』伝を読んで

通勤読書用に、松本清張の或る『小倉日記』伝をブックオフで買ってきました。

チョットした感想文を書いてみますね。松本清張の砂の器はがっかりしたと以前に書きました。でも、或る『小倉日記』伝は素晴らしいと思います。

素晴らしいと感動する小説とか映画を、私は何故良いのかその直後に説明できないんです。ただ、何か惹かれるものがあるということしか言えません。2-3日考えて、少しずつ何故惹かれるのか分かってくるような感じです。宮本輝の泥の河もそういう何かがあり、その泥の河を映画化した小栗康平の伽耶子のためにもそうでした。

あらすじを簡単に説明すれば、森鷗外が九州の小倉という所で過ごした時代の日記の所在が不明になったころ、田上耕作という小倉に住む人物が森鴎外の小倉時代の事績を調査し、「小倉日記」を再生しようと試みるというストーリーです。田上耕作というのは実在した人物です。

田上耕作は頭脳明晰でありながら、生まれつき神経系の障害があり、片足が不自由で言語障害があったため、周囲からは偏見の目で見られていたのです。しかしながら、母親や、彼の才能を認める友人と医師に励まされ、その生涯を「小倉日記」を再生という生きがいに費やしたのでした。「小倉日記」を完成することなく彼は病死し、その死後、森鷗外の「小倉日記」が発見されるのです。

田上耕作が障害を持っていることで、それがテーマであると考えられるかもしれませんが、私はこの小説のテーマは障害者への偏見とか、障害者が頑張って何かを成しえたとか、母親の愛情とかではないと思います。つまり、何か、私たちに教訓を与えようとしているのではないということです。たまたま、田上耕作が障害を持った人間であったことだけで、田上耕作が障害を持ってなくても、松本清張はこの小説を書いたと思います。

この文庫本に収められている他の小説でも、低学歴だとか、地方在住だとか、何らかの劣等感を持ちながらも、主人公たちは自分たちが惹かれ生涯をかけたプロジェクトを進めていくのです。それらの人生は必ずしも幸福な人生とは言えません。そういう意味では、田上耕作の障害は劣等感と結びついているのかもしれません。そして、これらの主人公たちの人生は、松本清張の初期の人生を反映させたものなのかもしれません。

主人公を温かく見守っているわけでもなく、作者は淡々と田上耕作の足取りを描きます。一人の人間が生きがいを見つけ、時には挫折しようとも、それを完成しようと歩んだという生き方を描いているわけです。最初に描かれているでんびんや(伝便屋)のちりんちりんという鈴の音のように、この小説は静かに読者の心に何かを響かし続けるのです。

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Commented by hamakorian at 2018-11-22 21:25
こんばんは。
私は、松本清張の作品はあまり好きではありませんが
(というより、最初の数ページで読む意欲が出てこなかった)、
indigogalさんの紹介文を拝見して、
松本清張の生い立ちや経歴をさきほど見てみました。
「一人の人間が生きがいを見つけ、時には挫折しようとも、
それを完成しようと歩んだという生き方」。
<温かく見守っているわけでもなく、淡々と。。>
だからこそ、この小説が押しつけがましくなく
<静かに読者の心に何かを響かし続ける>のですね。

肝心の、 或る『小倉日記』伝は読んでおりませんが
indigogalさんの文だけで
読んだような感動を覚えました。

清張さんも、喜んでおられるのではないかしらと思いました。
Commented by indigo-gal at 2018-11-23 00:26
> hamakorianさん
おはようございます。私は昭和の戦後間もない時代の小説が好きなので、松本清張の作品は読むのは好きです。松本清張の作品には、過去を引きずっている人だとか、不遇な人だとかが主人公や犯人に多いように思います。その時代は、日本の社会が今よりももっと閉鎖的だったのだと思います。だから、違和感は多少ともあるのですが。
by indigo-gal | 2018-11-22 11:52 | 読書・映画 | Comments(2)